2000年1月31日

阪神・淡路大震災から五年 被災マンションの復興状況

1.全2,532棟の復興状況

阪神・淡路大震災で損壊した2,532棟(大破83、中破108、小破353、軽微1,988)の、99年12月現在の復興状況は下図のようになっている。

まず建て替えについては、現時点で111棟が既に竣工しており、これに現在再建工事中の4棟を加えた115棟(全体の4.5%)が、「建て替え」という形で決着しているマンション数である。その他は圧倒的に補修が多く、2,405棟と全体の95%を占めている。今なお決着していないマンションは、いよいよ6棟となった。このうち5棟については建て替え決議の無効をめぐり係争中であり、残る1棟は協議が長引いているが、建て替えに向けて進行中である。

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【調査対象】 兵庫県下8市(神戸市、芦屋市、西宮市、伊丹市、川西市、尼崎市、宝塚市、明石市)を対象として95年3月に小社にて実施した「阪神・淡路大震災による分譲マンションの被害度調査」(全5,261棟の有効サンプル)において、何らかの被害が確認された2,532棟を対象に集計したものである。

2.被災度別復興状況

まず、95年3月に小社にて実施した「阪神・淡路大震災による分譲マンションの被害度調査」の、判定基準と各々に該当する棟数は以下の様になっていた。

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(1)大破のマンション

大破のマンションは、上記の表のように建て替えの可能性がかなり高いと考えられた83棟である。実際には77.1%にあたる64棟が建て替えとなった。補修を行なったマンションは12棟(14.5%)発生した。いずれもかなり大規模な補修である。また、再建せずに土地を売却した「処分済み」のマンションは5棟(6.0%)であった。最後に、復興の方向性が定まっていない「協議中」のマンションは残すところ2棟である。うち1棟は既存不適格の問題などで協議が長引いているが、基本的には建て替えに向けて進行中であり、もう1棟では建て替え決議の無効をめぐって係争中である。

(2)中破のマンション

中破の108棟は、大破ほど著しい損壊ではないが、補修で済むのか、建て替えが必要なのかという判断が微妙なマンションであった。実際には、このうち75棟(69.5%)が補修となり、建て替えは31棟(28.6%)であった。また、中破からも処分されたマンションが1棟発生した。現在協議中の1棟は、建て替え決議の無効をめぐって係争中である。

(3)小破のマンション

小破353棟の95.5%にあたる337棟が補修済みとなっている。小破のマンションについては建て替えとなる可能性は低いと思われたが、実際には14棟(4.0%)が建て替えとなった。また、現在も協議中の2棟については、建て替え決議の無効をめぐって係争中である。

(4)軽微のマンション

軽微のマンションについては、被災度調査の段階では全て補修になるものと考えていた。事実、全体の99.6%にあたる1,981棟は補修となっている。しかし、建て替えも6棟発生している。また建て替え決議の無効をめぐる訴訟も1棟で発生している(表中の「協議中」のマンション)。

3.世代別復興状況

(1)世代別被災状況

下表は、耐震設計基準の改定時期を境に、1970年以前を「旧耐震期」、1971年から1980年までを「移行期」、そして1981年以降を「新耐震期」と世代分けし、各世代に建築されたマンションの被災度を集計したものである。ご覧のように、世代の古い物件ほど大きく損壊した率が高かった

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(2)世代別復興状況

a.旧耐震期
【被災状況】全5,261棟のうち、1970年以前に建てられた「旧耐震期」のマンションは366棟存在した。その被災度は、大破が31棟(8.5%)、中破が18棟(4.9%)、小破が22棟(6.0%)、軽微が117棟(32.0%)となっており、その他の178棟(48.6%)については損傷なしとなっている。特に大きく損壊した大破と中破の比率は、移行期や新耐震期に比べて格段に高かった。

【復興状況】大破の8割が建て替えに

大破〜軽微188棟の復興の内訳は、43棟(22.9%)が建て替え、141棟(75.0%)が補修、3棟が処分、そして1棟が現在も協議中となっている。特に大破のマンションでは31棟中26棟(83.8%)と8割以上が建て替えとなっている。建て替え比率は、中破では18棟中10棟(55.6%)、小破では22棟中4棟(18.2%)、軽微では117棟中3棟(2.6%)と被害度に応じて減少している。

b.移行期
【被災状況】「移行期」に建てられたマンションは1,811棟存在し、被災状況は大破が42棟(2.3%)、中破が49棟(2.7%)、小破が158棟(8.7%)、そして軽微が647棟(35.7%)となっている。残る915棟は損傷を受けなかった。大破、中破など特に大きな被害を受けたマンションは全体の5%と、旧耐震期を大きく下回る。

【復興状況】移行期も大破は8割が建て替えに

大破〜軽微の896棟については、建て替えが58棟(6.5%)、補修が831棟(92.7%)、処分が2棟(0.2%)、協議中が5棟(0.6%)となっており、補修の比率が圧倒的に高い。しかし大破のマンションでは42棟中33棟(78.6%)と、旧耐震期と同様に8割近くが建て替えになっている。大破で補修となったマンションは6棟と、全体の1割強であった。

建て替えは中破のマンションでは49棟中15棟(30.6%)、小破では158棟中8棟(5.1%)、そして軽微ではさらに減少し、647棟中2棟(0.3%)となる。

c.新耐震期
【被災状況】1981年以降のマンションは、新耐震設計基準に基づいて設計されており、いわば旧耐震期や移行期のマンションと比べて地震に対する建物の耐力が高いわけである。実際に、全3,084棟のうち9割以上が損傷なしあるいは軽微な損傷であった。しかし、震度7の激震地域に関しては、大破(10棟)、中破(41棟)も発生していた。

【復旧状況】99%が補修だが、建て替えも発生

大破〜軽微の1,488棟は、建て替えが14棟(1.0%)、補修が1,433棟(98.9%)、そして処分が1棟(0.1%)と、全体の99%が補修で決着している。しかし被災度別に見ると、大破のマンションでは10棟中5棟が、中破のマンションでは41棟中6棟が建て替えとなっている。また小破(2棟)や軽微(1棟)でも建て替えは発生している。

世代別復興状況
下表は、世代別(耐震基準別)・被災度別の復興状況である。

*単位は棟、カッコ内はシェア
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4.この五年間の復興推移

ここでは、特に損壊が大きかった191棟(大破の83棟、中破の108棟)について、この5年間の復興の推移を振り返ってみた。

【復興完了率の推移】

この大破と中破のマンションに関して、建て替えが完了した状態(竣工)および補修が完了した状態(補修済み)を便宜的に'復興完了率'として五年間の推移を見てみた。尚、復興せずに処分となった6棟については除外しているので、母数は185棟である。また、再開発や区画整理の指定地域内のマンションについては、着工した段階で「建て替え」の中に移動させている。ご覧のように、補修については堅調に推移してきたが、やはり建て替えマンションの竣工が急激に進んだ98年に復興の完了率も大きく高まっているのがわかる。

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5.五年間を振り返って

この五年間は、被災マンションの復興をめぐる多くの問題が取り沙汰された。既存不適格の問題、区分所有法の解釈の問題、住民の意思統一の難しさなどそれは多岐に及び、中には裁判にまで発展した例もあった。このような事実をメディア経由で知るに至った人の中には、あるいはマンションに対する否定的な感情が生まれたのかも知れない。しかし、小社はこれまで、マンションであるが故の利点にも着目してきた。被災時においては人を死に至らしめるような建物の損壊が、戸建て住宅より圧倒的に少なかったことを記した。そして復興過程においては、確かに意思統一の難しさがある反面、一旦結束すればそのエネルギーは非常に大きなものとなり、それゆえに数々の難問をクリアーできたことをお伝えした。実際に、マンションの復興スピードは戸建て住宅よりはるかに速かった。通常の老朽化などによる建て替えのなどの場合、過去の例を見ても意思統一や計画策定まで相当に長い年数を要する。今回の場合は罹災時とは言え、100棟を越えるマンションが五年という期間で建て替えられたという事実は驚くべきことである。当事者の方々そして支援されている方々の努力の賜物である。

さて、今後は首都圏などでも大量の建て替え問題が発生する可能性があり、また逆に大規模なリフォームによってマンションの長寿化を図る動きもある。どちらにせよ、震災復興の過程で学んだことは将来に生かされるべきだろう。残念ながら、これまではどちらかと言えばマンションの抱える問題点ばかりが指摘されるような傾向があった。しかし、小社はむしろ注目すべきは成功事例であると考えている。要するに何が建て替えや補修を成功させる要因であったのかという点である。それこそが将来の問題解決策を示唆してくれているものと考えている。復興状況の報告はとりあえず今回が最終回の予定だが、いずれ機会があればそのような成功事例を収集して特集記事を制作してみたいと考えている。

以上

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