2012年4月30日

東日本大震災 宮城県マンション 被害状況報告

宮城県内の分譲マンション全1,460棟の被災度調査結果

 

はじめに

東日本大震災の発生から1 年が経過した。今なお各地に震災の爪痕が生々しく残っている状況であり、がれき処理や福島第一原発事故の対応など未だに解決に相応の時間を要する問題が山積している。
とりわけ津波で壊滅的な被害を受けた三陸海岸沿いの地域では、都市機能の高台への移転や地域インフラの再構築、自然災害に強い街づくりに迫られているものの、なかなか前進していないのが現状である。
東京カンテイは、1995 年の阪神・淡路大震災発生の際に、当時兵庫県に存在する全5,352 棟の分譲マンションについて現地調査を実施し、そのうち何らかの被害が認められた2,532 棟については以降5 年間に渡って復興状況の推移を定期的に公表している。東日本大震災においても、東北地方で最もマンションが数多く存在している宮城県を対象として全1,460 棟の調査を行った。
今回掲載する報告には、マンションの耐震性能と実際の被災度の関係を地域ごとに調査し、特に耐震基準の違いで被災度に明確な差異が発生しているか否かについて着目した。結論から述べれば、マンションの震災被害の度合いは、耐震基準よりも土地・地盤との相関性が高いと考えられる。なぜそうなっているのか、どのようなマンションがより安全なのか。この調査報告を今後の都市防災の一助とするべく活用してもらうことを切望するものである。

建物の被災状況(建物状況)の被災度区分

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敷地被害程度の定義

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※今回の調査では「大規模」判定は皆無である。

周辺被害程度の定義

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東日本大震災宮城県現地調査について

◆実施日       :2011 年7 ~ 8 月
◆調査対象エリア   :宮城県全域
◆調査対象マンション :1,460 棟
◆調査項目      :
①マンション建物の被災状況(建物状況)
 →「被害無」「軽微」「小破」「中破」「大破」「倒壊」の6 分類で判定
②マンション敷地の被災状況(敷地状況)
 →「被害無」「軽微」「小規模」「中規模」「大規模」の5 分類で判定
③マンション周辺の被災状況(周辺状況)
 → ともに「被害無」「被害有」「不明(地震による被害か判断できず)」の3 分類で判定
◆現地調査主体    :東京カンテイ

 

Ⅰ 東日本大震災について

東日本大震災はマグニチュード9.0を記録した「平成23年東北地方太平洋沖地震」(3月11日14時46分発生)を本震とする大災害であり、最大震度は宮城県栗原市の震度7で、死者15,854人、行方不明者3,155人(警察庁調べ:2012年3月11日時点)もの犠牲者を出した戦後最悪の自然災害である。死者の92.5%は大津波によるものであった。またこの津波により福島第一原発で水素爆発による放射線漏れ事故が発生し、広範囲に放射能汚染による被害が生じているほか、食料品などに対する副次的被害も未だ深刻である。

本震名称:平成23年東北地方太平洋沖地震

●発生日時     平成23年3月11日 14時46分
●マグニチュード  9.0
●場所および深さ  三陸沖(牡鹿半島の東南東、約130km付近)、深さ約24km
●震度5弱以上を観測した宮城県の地域
※ 赤字は今回の調査対象となった分譲マンションが存在する地域
震度7   :栗原市
震度6強  :涌谷町 登米市 大崎市 名取市 蔵王町 川崎町 山元町 仙台市宮城野区 塩竈市 東松島市 大衡村
震度6弱  :気仙沼市 南三陸町 白石市 角田市 岩沼市 大河原町 亘理町 仙台市青葉区 仙台市若林区 仙台市泉区 石巻市 松島町 利府町 大和町 富谷町
震度5強  :仙台市太白区 七ヶ浜町 柴田町
震度5弱  :多賀城市

※ 東日本大震災では3月11日14時46分の本震以外にも震度6弱以上の余震が4度発生している。これらの地震によって建物や敷地が何らかの影響を受けていることも考えられるが、今回の調査では本震による被害か余震による被害か区別することが出来ないため、調査結果には特に反映していない。

●震度6弱以上の余震
2011年3月11日 15時15分34秒 M:7.7 茨城県沖   最大震度:6強
2011年4月 7日 23時32分43秒 M:7.1 宮城県沖   最大震度:6強
2011年4月11日 17時16分12秒 M:7.0 福島県浜通り 最大震度:6弱
2011年4月12日 14時07分42秒 M:6.4 福島県中通り 最大震度:6弱

 

Ⅱ マンション被害の分布 ~エリアによって異なる被害状況

(1)仙台市の状況
当社のデータベースには、震災当時宮城県内に1,460棟のマンションが竣工済みとして登録されていたが、その92.0%にあたる1,343棟が仙台市内の物件である。まずは仙台市内の被災度状況を区ごと、耐震基準の違いに基づいて分析する。

表-1に赤字で示しているのは本震における震度である。同じ仙台市内でも宮城野区の震度6強から太白区の震度5強まで3段階の差が生じている。これは主として、震源からの距離や地震の伝わり方の違いによって生じたものと考えられるが、マンションの被災度状況はこの計測震度とは相関性が低いことがわかる。
仙台市5区の中では震度6弱を観測した行政区は青葉区、若林区、泉区である。しかしこれら3区の被災状況は大きく異なっている。最も被害が大きかったのは泉区で、「被害無」の割合は全139棟のうち49棟(35.3%)に留まっていて、「軽微」以上の被害ありは90棟(64.7%)と物件が3棟のみである宮城郡七ヶ浜町(被害あり66.7%)を除けば、宮城県内で被災の割合が最も高い地域となっている。仙台市の中心地区でありマンションストックの最も多い青葉区では、全597棟のうち「被害無」は341棟(57.2%)で、「軽微」以上の被害ありは256棟(42.8%)である。何らかの被害があったマンションは全体の半数に満たない。およそ2/3のマンションが被害を受けた泉区の被災状況とは大きな違いが発生している。また、若林区では全141棟のうち「被害無」は91棟(64.6%)、「軽微」以上の被害ありは50棟(35.4%)である。若林区は青葉区よりさらに被災度が低く、被害が認められたマンションは全体の1/3程度に過ぎない。同じ震度6弱を記録した仙台市3区のうち、「軽微」以上の被害が認められた棟数のシェアは、青葉区42.8%、若林区35.4%、泉区64.7%である。若林区と泉区では被害の割合で2倍近い開きが生じている。
震度5強と相対的に本震の観測震度が小さかった太白区は、全246棟のうち「被害無」は107棟(43.5%)、「軽微」以上の被害ありは139棟(56.5%)と被災したマンションが過半を超えている。被災した割合は震度6弱を観測した青葉区と若林区よりも高くなっており、地震によって受けたエネルギーが相対的に小さいはずの太白区は地震に弱い地盤・地質構造の場所が多いと推察される。
宮城野区では「被害無」は83棟(37.7%)、「軽微」以上の被害ありは137棟(62.3%)と、被害が発生した割合は泉区の64.7%に次いで高くなっている。宮城野区は仙台市の中で本震によって唯一震度6強を観測した行政区であり、また他の行政区と比べ沿岸の震源に最も近い位置にあることも被害が大きくなった要因であると考えられるが、区内には七北田川が流れ、また区の北部には沼地も存在しており、このような地域特性および地盤強度がマンションの被災度に影響した可能性は否定できない。

(2)仙台市における耐震基準の違いによる被災度比較
次に区ごとの揺れの大きさと耐震基準の違いの相関性を見てみると、前述の通り、全体的には計測震度と被災割合との相関性は決して高くないものの、新耐震と旧耐震の違いは揺れの大きさと一定の相関性があり、旧耐震マンションは揺れが大きいと被災比率が高まる傾向が強いことが明らかである。
唯一、震度6強を記録し、被災したマンションが多かった宮城野区では、「小破」以上の被害ではいずれも旧耐震マンションの割合が高くなっている。「小破」は新耐震が11.1%で旧耐震は19.4%と明らかな差異が生じており、「中破」は新耐震が1.1%、旧耐震が9.7%とやはり明らかに旧耐震マンションの被災度が高い。被害の大きかった宮城野区では「被害無」の割合差は2.7ポイントに過ぎず、むしろ被災度の差は「小破」、「中破」でより大きくなる傾向がある。同区では「小破」は旧耐震マンションの被災度が新耐震より8.3ポイント、「中破」では8.6ポイント高くなっており、旧耐震マンションの被害がより深刻なものとなっていることがわかる。今回唯一発生した「大破」マンションは宮城野区にある(1976年竣工の旧耐震マンション)。同区には70年代前半に竣工した築35年以上のマンションが多いことも被害が大きくなった要因と考えられる。
一方、震度6弱を記録した青葉区と若林区では新耐震基準と旧耐震基準で被害の差が宮城野区より小さくなっている。若林区では「小破」の割合は新耐震が10.9%、旧耐震が12.9%とごく僅かの差しかなく、数値に有意性は認められない。また若林区では「中破」以上の被害は新耐震・旧耐震ともに発生していなかった。青葉区は「小破」は新耐震が7.9%、旧耐震が18.0%と10.1ポイントの差が生じているが、「中破」以上の被害は新耐震に2棟(0.4%)あるのみで、被害の差は新耐震と旧耐震でほとんど無い。
泉区と太白区では反対の傾向が表れている。泉区では旧耐震マンションは僅かに3棟しかないが、そのすべてが「被害無」であった。しかし新耐震マンションでは被害が生じており、「被害無」は33.8%なのに対して、「軽微」が41.2%、「小破」21.3%、「中破」3.7%と、いずれも仙台市平均の旧耐震マンションの被災度より高くなっている。また太白区では旧耐震マンションは16棟と少ないが、このうち「被害無」は50.0%、「軽微」は25.0%、「小破」は25.0%である。一方、新耐震マンションは「被害無」が43.0%と旧耐震マンションよりも少なく、「軽微」43.5%、「小破」12.2%、「中破」1.3%と、旧耐震マンションにはなかった「中破」の被害が生じている。
このように耐震基準別に被災状況を見ると、旧耐震マンションの方が揺れの程度に相関性が高く、揺れの程度が大きいほど被害割合が高まる傾向が見られる。
揺れの規模が小さい場合、新耐震と旧耐震では被害に大きな差は生じていないが、揺れが大きい場合は旧耐震の被害が相対的に大きくなり、その差は有意性が明確になる。ただし、地盤によっては揺れの程度と関係なく新耐震マンションにも大きな被害が出ており、軟弱な地盤の上に建てられれば新耐震マンションであっても安全性が高いとは言えない。

表-1 宮城県・仙台市区別 耐震基準別マンション被災状況

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※行政区の震度は2011年3月11日14時46分の本震における震度

(3)仙台市以外の被災状況
宮城県内で仙台市以外の地域には分譲マンションが決して多くない。特に旧耐震マンションは石巻市に1棟、多賀城市に2棟、大崎市に1棟、合計で4棟しかない。仙台市以外は戸建住宅が中心の地域であり、マンション供給も総じて1990年代から始まっている。
石巻市にはマンションが13棟あり、このうち旧耐震マンションは1棟しかない。ほとんどが1990年以降に分譲された比較的新しいマンションが多い。石巻市では津波の被害が大きく、沿岸に位置する店舗や工場などは甚大な被害が発生している。しかし、幸いにも被害の大きかった港湾地区には分譲マンションは供給されておらず、津波の被害も概ね1~1.5メートル程度に留まっており、津波によって壊滅的な被害を受けたマンションはなかった。しかし、津波が到達した地域では1階部分の居室や電化製品などが被害を受け、住戸外にゴミとして出されているケースを多く見た。津波は市の中央を流れる旧北上川を遡上しており、川上まで浸水の被害が見られた。全13棟のうち「被害無」は5棟(38.5%)、「軽微」は7棟(53.8%)、「小破」は1棟(7.7%)となっている。
多賀城市は計測震度が震度5弱と宮城県の主要都市の中では最も弱かったが、その結果は被災の分布にも表れている。ただし津波による被害が発生しており、マンションが存在する地域にも1~2メートルの津波が到達し、マンションの1階部分に被害が及んでいる事例もあったものの、全37棟のうち26棟(70.3%)には被害がなく、何らかの被害があったマンションは11棟(29.7%)に留まっている。新耐震マンション35棟に対して旧耐震マンションは2棟のみであり、比較的新しいマンションの多い地域であったことも被害が小さい要因と考えられる。
塩竃市は石巻市と同じく港湾都市であるが、前面の海に小島が数多く点在しているため、津波が減殺されて被害程度は比較的低い地域である。しかし、調査では最大2メートルの津波痕を観測しており、マンションが運河沿いに建築されていたこともあって、津波による直接の被害(津波によって流されたがれきなどによって外壁に損傷が発生している)があったマンションが数棟見られた。ただし、これらのマンションではいずれも1階部分は駐車場となっていたため、住戸が津波によって被害を受けた様子はなく、調査時点で2階以上の階層では居住が確認されていて被害が相対的に少なかったようだ。マンションの被害状況は、全17棟のうち「被害無」8棟(47.1%)、「軽微」8棟(47.1%)、「小破」1棟(5.8%)であった。本震は震度6強であったが、旧耐震マンションがなく、マンションがいずれも新しいものであったのが揺れの大きさに比べて被害が小さかった要因であると推測される。
大崎市は仙台市の北西に位置するが、本震は震度6強で揺れの激しかった地域に属する。全12棟のうち「被害無」は6棟(50.0%)、「軽微」は6棟(50.0%)で、「小破」以上の被害はなかった。被害は外廊下とのジョイント部のヒビや外壁のタイルの剥離であり、震度6強を観測した割には、建物は比較的軽微な被害であったと言える。
仙台市の南に位置する名取市は津波で甚大な被害が発生した地域である。しかし幸いなことに沿岸地域にはマンションはなく、名取市中心部にのみマンションが点在していたため、津波による被害は全くなかった。また旧耐震マンションも皆無で、本震は震度6強であったが「中破」以上の被害はなかった。全17棟のうち「被害無」は8棟(47.1%)、「軽微」は6棟(35.3%)、「小破」は3棟(17.6%)であった。
岩沼市は本震が震度6弱で塩竃市や大崎市よりは揺れが小さかったため、全8棟のうち「被害無」が5棟(62.5%)、「軽微」が2棟(25.0%)、「小破」が1棟(12.5%)と比較的被害は小さかった。被害のほとんどは外壁のクラックであった。
気仙沼市は津波の被害が大きかったが、1棟あるマンションは津波の被害を免れ、タイルが剥離した程度の「軽微」な損傷に留まっている。

表-1 宮城県・仙台市区別 耐震基準別マンション被災状況 (続き)

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※行政区の震度は2011年3月11日14時46分の本震における震度

 

Ⅲ 免震・制震構造のマンションの被災状況

阪神・淡路大震災以降、分譲マンションにおいても免震構造や制震(制振とも表記するが本稿では制震とする)構造を採用して地震への対応力強化を図った物件が数多く供給されるようになっており、東京カンテイのデータベースには宮城県内の免震・制震構造を持つマンションについて、免震マンション33棟および制震マンション3棟が各々確認されている。
棟数は決して多くはないが、これらの被災度状況を示したのが図-1および表-2である。データの通り、免震マンション33棟のうち29棟(87.9%)が「被害無」で、他の4棟はいずれも「軽微」(12.1%)に留まっており、「小破」以上の被害は皆無であった。また「軽微」とされた4棟の被害状況も軽微なクラックやタイルの一部欠けなど程度の軽いものであったことから、地震に対して一定の効果を発揮したものと見られる。免震構造マンションで「被害無」であったマンションの中には仙台市太白区長町に立地するマンションがあるが、同地区は被災度が高い地区であり、太白区長町の全46棟の被災度は「被害無」11棟(23.9%)、「軽微」22棟(47.8%)、「小破」12棟(26.1%)、「中破」1棟(2.2%)となっている。このような被災マンションの多い地域において免震構造が効果を発揮したという事実は注目に値する。
また、制震マンションでは全く被害は認められなかった。調査対象になった制震マンションはいずれも26階~31階の超高層マンションであるが、外壁のクラックなどの痕跡もなく、地震対応力の高さが証明されたと言うことができる。

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表-2 宮城県 免震・制震マンションの被災状況

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Ⅳ 地域別建物の被災度と地盤の相関性

表-3は、仙台市の各行政区を町単位まで区分して建物の被災度を示したものである。前述の通り、同じ仙台市の中でもマンションに対する被害が比較的少なかった青葉区や若林区、被害が多かった宮城野区、泉区、太白区に分類できるように、行政区の中でも被災度が高い町と低い町が明確に分かれている。泉区には「被害無」が70.0%以上の町はなく、掲出した9地区のうち6地区が「被害無」50.0%未満で被害が比較的大きい。他の3地区も「被害無」はいずれも50.0%である。また、宮城野区でも「被害無」50.0%未満が対象17地区中11地区で、「被害無」が70.0%未満なのは2つに過ぎない。このように同じ行政区内でも被災度割合にばらつきが見られるのは、地震の被害の大きさが、建物が新耐震であるか旧耐震であるかということよりも、どのような性質の土地に供給されたのかという違いの方が大きく影響しているものと考えられる。
青葉区は仙台市の中心地であり、歴史も古く、古い住宅街が点在している。特に青葉区米ケ袋(こめがふくろ)と青葉区上杉(かみすぎ)は中心地から程良く離れている瀟洒な住宅街であり、低層の邸宅型マンションが多く見られる。両地区では建物の「被害無」の割合が70.0%以上を占めている。ともに高台に位置し、建築制限のため低層の住宅のみが建築されている地区だが、米ケ袋では全22棟のうち7棟(31.8%)が旧耐震マンションであり、仙台市の旧耐震マンションの割合16.4%よりも旧耐震マンションの割合がかなり高いにもかかわらず、実際に被災したマンションは「軽微」が4棟のみ(18.2%)と少なく、この内訳も旧耐震が2棟、新耐震が2棟である。つまり米ケ袋では被害が少ないだけでなく耐震基準によって被災度に差が表れていないことが明らかである。旧耐震マンションでも立地が吟味され、米ケ袋のように地盤の堅固な高台に建築されている場合には被害が少ないというのは注目するべき事実である。
上杉地区では全46棟のうち6棟(13.0 %)が旧耐震マンションで、このうち「軽微」の被害が3棟あり、他の3棟は「被害無」であった。「軽微」3棟も外壁のクラックや壁タイルのヒビなどの被害に留まっている。上杉には1棟(2.2%)「小破」のマンションがあるが、これは新耐震マンションであった。新耐震マンション40棟のうち「軽微」または「小破」の被害があったのは10棟(25.0%)である。
このように米ケ袋と上杉は、仙台市青葉区内にあって他の地区と比べて明らかに被災が少ない。周辺と比べて被災度合いが低い地区は、比較的地盤が強固な地域であると考えられる。地盤が強固であれば耐震性能の違いによって被災の程度に大きな差が表れず、ほとんどが「被害無」か「軽微」に留まる傾向にある。
反対に泉区八乙女に代表されるように、全15棟のうち「被害無」が2棟(13.3%)だけで、「軽微」4棟(26.7%)、「小破」4棟(26.7%)、「中破」5棟33.3%と被災度が高くなっているのは、この地区が川や湖沼が数多く存在する軟弱な地盤で、固い地盤より揺れやすい性質を持っているからである。また軟弱な地盤は土地が沈化または隆起することで、マンションの敷地や外構部分に大きな破損を伴うことが多くなる。被災した15棟はすべて新耐震基準マンションであることからも、建物の耐震基準より地盤の良し悪しの方が被災度に対する影響が大きいことがわかる。

表-3 宮城県 主要地区別マンション被災状況(物件数5以上の地区のみ掲載)

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表-3 宮城県 主要地区別マンション被災状況 (物件数5以上の地区のみ掲載)続き

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表-3 宮城県 主要地区別マンション被災状況 (物件数5以上の地区のみ掲載)続き

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表-3 宮城県 主要地区別マンション被災状況 (物件数5以上の地区のみ掲載)続き

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仙台市以外の行政区

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今回の調査の中で分譲マンションとして唯一「大破」の認定を行った仙台市宮城野区福室の「サニーハイツ高砂」(14階建)は地震の震動によって杭基礎に破壊が生じ、1/54(縦54に対し横1の割合)の傾きが生じた。この傾きはその後の余震で1/45まで拡大している(ケンプラッツwebより引用)。福室周辺には「中破」のマンションが他に2棟あり、比較的被害の大きい地区となっている。被害が大きい要因はこの地域の地形的特徴にある。このエリアは七北田川が下流に向かい南から東に蛇行していて、川が運んだ砂が堆積してできた沖積層の軟らかい地盤である。地盤の弱さが被害に繋がったと考えるのが妥当であろう。
「サニーハイツ高砂」は公費解体が適用され、区分所有者全員の合意により取り壊しの上清算することが決定しており、2011年11月に着工し2012年12月までに解体工事を完了する予定である。

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大破した「サニーハイツ高砂」(宮城野区福室)

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非常階段棟が倒れるおそれがあるマンション【建物状況:中破】(宮城野区鶴ヶ谷)

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外壁にX字クラックが入り鉄筋が露出している【建物状況:中破】(泉区八乙女)

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敷地内に段差が生じたケース 不同沈化が見られる【建物状況:小破/敷地状況:中規模】(青葉区旭ヶ丘)

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津波により1階住戸の窓が破壊されたマンション(多賀城市町前)

 

Ⅴ 阪神・淡路大震災の被災状況との比較

表-4および5、図-2および3の通り、阪神・淡路大震災(以下:阪神大震災)の被災度を旧耐震と新耐震で比較すると、新耐震の被災度では「被害無」と「軽微」は旧耐震より新耐震の方が多く、「小破」、「中破」、「大破」は明らかに旧耐震マンションの方が大きくなっている。しかし、東日本大震災の被災度では有意の差が生じているのは「小破」までであり、「中破」、「大破」では新耐震も旧耐震も大きな差が生じていない。東日本大震災では阪神大震災と比べ旧耐震マンションについても「中破」や「大破」といった大きな被害を免れたという結果となっている。
阪神大震災は非常に激しい縦揺れに見舞われたために、マンションのような堅固な建物も縦方向に非常に大きな力が加わり、低層階・中間階や、ピロティーなどで座屈や主要構造部のせん断などが発生した。一方、東日本大震災では、激しい横揺れが長時間続いたものの、津波によって家屋そのものが流された地域を除けば、戸建住宅の倒壊はほとんど起こっていない。現地の技術者の調査では「筋交い」がきちんと入っていれば、倒壊を免れることが出来たことが確認されている。このため、RC(鉄筋コンクリート造)またはSRC(鉄骨鉄筋コンクリート造)で柱・梁・壁・天井で構成されたマンションは、横揺れにはある程度対応出来る能力を有しており、そのため東日本大震災では旧耐震マンションの被害と新耐震マンション被害に大きな差が生じなかったと考えられる。
阪神大震災は神戸市や西宮市を中心に建物にも甚大な被害が発生し、死者6,434人という大きな被害をもたらした。阪神大震災の死者のほとんどは建物の倒壊等による圧死であり、特に戸建住宅で多くの犠牲者を出した。またマンションでも低層階の座屈などが生じ、大型家具などの転倒によって死者を出している。阪神大震災の地震は震源が5㎞と浅く「直下型地震」であったこと、活断層の破壊によってもたらされた地震であること、大都市の真下で発生し人口密集地域を直撃したことなど、東日本大震災とは地震の性質そのものが大きく異なる。
また、発生したのが1995年と東日本大震災とは16年の隔たりがあるため、旧耐震マンションと新耐震マンションのストック割合にも大きな差がある。阪神大震災が発生した1995年には兵庫県の竣工済みマンションのうち旧耐震と新耐震の比率は約2:3と拮抗していたが、2011年の東日本大震災における宮城県の旧耐震と新耐震の比率は約1:6である。
さらに、阪神大震災が活断層の破壊によって生じた断層型地震で、規模はマグニチュード7.3であったのに対し、東日本大震災は牡鹿半島沖130㎞の太平洋上、深さは24㎞に震源域があり、北米プレートと太平洋プレートの境目で起こったプレート境界型地震で、マグニチュード9.0と非常に巨大でかつ広範囲な地震という違いもある。東日本大震災の地震のメカニズムはいまだ調査中であり、詳しいデータはまだ公表されていないが、阪神大震災は強烈な縦揺れを伴っていたのに対し、東日本大震災の場合は縦揺れよりも横揺れが中心で、度重なる余震も含め激しい横揺れが長時間続いたのが特徴である。東日本大震災の被害の9割以上は巨大津波によってもたらされたもので、その点も阪神大震災とは大きく性質が異なっている。

表-4 東日本大震災 宮城県耐震基準別建物被災状況

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表-5 阪神大震災 兵庫県耐震基準別建物被災状況

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さいごに

東日本大震災の本震「東北地方太平洋沖地震」は、規模はマグニチュード9.0で、1900年以降に発生した世界で4番目に大きな地震であり、日本観測史上最大の地震であった。この地震によって発生した巨大津波の遡上高(陸地の斜面を駆け上がった高さ)は最大40メートル超に達した。死者の92.5%は津波によるものであったが、津波によって被害を受けた分譲マンションは少なく、16棟に留まった。1階部分が住戸となっているマンションの中には窓が損壊したために住戸内に津波が及んだケースも確認している。
東日本大震災と阪神大震災の最大の違いは、東日本大震災の震源域が沿岸から約130㎞離れた深さ24㎞であったのに対し、阪神大震災は神戸市の深さ5㎞の直下型地震であったことであると考えられる。宮城県の調査対象マンション1,460棟のうち、阪神大震災で数多く見られた低・中間階での「座屈」は一件も見られなかった。軽々に言うことは出来ないが、東日本大震災は横揺れが長期間続くという性質の地震であったため、横方面の揺れに比較的強い日本の建築物は、何とか震災に耐えることが出来たと言えるのかもしれない。
東日本大震災では倒壊したマンションこそ皆無であったが、非耐力壁に深いクラックが入って鉄筋が剥き出しとなり、「中破」判定を行ったマンションが15棟あった。これらのうち12棟は新耐震基準によって建てられたマンションであった。東日本大震災においては、新耐震と旧耐震の耐震性能の差よりも、その土地の地盤や地質の良し悪しがマンションの被害の度合いを決定したことは本稿の分析から明らかである。地盤や地質、地形の問題は最も注意を払うべき問題であると言えるだろう。
また、今回の調査結果からは免震や制震装置が設置されているマンションの地震対応能力が高かったことが確かめられた。
震災復興は多分に都市再生のプロセスを含んでいるのであり、自然災害に強い街づくりにはマンションの耐震技術や都市機能の集積性が活かされるべきである。マンションは食料貯蔵施設、ヘリポートを備えることが可能であるし、一歩進めれば病院や学校などを併設することもできるだろう。マンションはそもそも耐震・耐火性能が高く、日常のセキュリティや共用施設としての集会所や災害対策用品備蓄倉庫などを備えることもできるため、地域の防災拠点としての機能を担うことも可能である。
このような機能を最大限活用することによって、災害に強い都市を作ることができるのではないだろうか。

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